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Space/宇宙

マイクログラビティ(微小重力)は人体に何をするのか

Chika

2026/8/23

宇宙飛行士

海の星、地球のストーリー100_#003

宇宙旅行時代の予習:マイクログラビティ(微小重力)は人体に何をするのか

2025年6月25日(日本時間15時31分)、Axiom Space社が主催する民間宇宙飛行ミッション「Axiom Mission 4(Ax-4)」がケネディ宇宙センターから打ち上げられた(1)。元NASA宇宙飛行士のペギー・ウィットソンをコマンダーに、インド・ポーランド・ハンガリーからそれぞれ初めて宇宙に挑む3名を加えた4名が、国際宇宙ステーション(ISS)に約2週間滞在し、2025年7月15日に太平洋上へ帰還した(2)。2026年初頭時点で、観光や自費でのミッションを通じて宇宙へ到達した民間人はすでに120人を超えている(3)。ヴァージン・ギャラクティック社は、新型機「デルタクラス」による商業運航を2026年第4四半期に再開する計画を発表しており、年間1,000人規模の輸送を見込んでいる(4)。

今回から数回にわたり、宇宙旅行時代を生きる私たちが知っておきたい、マイクログラビティ(微小重力)が人体に及ぼす影響について書いていく。まずは全体の地図を描くところから始めたい。

加圧と減圧

海に潜れば、加圧と減圧が起きる。血液の巡りが変わり、「潜水反射」と呼ばれる生理反応が起きる。国際宇宙ステーションの船内気圧は地上とほぼ同じ約1気圧(101kPa)に保たれているが、船外活動(EVA)で着用する米国製宇宙服「EMU」の内部気圧は約0.3気圧(30kPa)まで下げられる(5)。ロシア製の宇宙服「オーラン」は約0.4気圧とやや高い(5)。この急激な気圧差にさらされると、体内に溶け込んだ窒素が気泡化して毛細血管を詰まらせる「減圧症」を起こす危険があるため、宇宙飛行士は純酸素を吸って体内の窒素を排出する「プリブリーズ」という手順を、船外活動前に数時間かけて行う(6)。宇宙飛行士もまた、潜水士と同じように加圧と減圧を経験している。

骨が溶けていく速さ

国際宇宙ステーションに長期滞在した宇宙飛行士の大腿骨の骨密度は、平均してひと月に1.0〜1.5%失われる(7)。これは地上の骨粗鬆症患者のおよそ10倍の速さだ。骨は本来、力学的な負荷を受けることで「壊す」と「作る」のバランスを保っているが、重力の負荷がなくなるとこのバランスが崩れ、骨のカルシウムが血中や尿に溶け出す。

伸びる背骨、動く体液

無重力に入ると、背骨の間の椎間板が地上の重さから解放されて広がり、最初の3〜4日間で身長は約3%伸びる(8)。JAXAによれば通常は1〜2cmだが、過去には7cm以上伸びた海外の飛行士の例もある。JAXAの金井宣一宇宙飛行士は2018年1月、ISS滞在から約3週間で「身長が9cm伸びた」とツイッターに投稿したが、ロシア人船長の指摘を受けて測定し直したところ、実際の伸びは2cmだったと訂正している(9)。ただし喜ばしいことばかりではなく、背骨の周りの筋肉が引っ張られるため、宇宙に行った直後は背中や腰に痛みを感じる飛行士も多い。

同時に、体の中の体液も動き出す。地上では重力によって下半身に溜まりがちな血液や体液が、宇宙では上半身へと流れ込み、顔がむくむ「ムーンフェイス」と呼ばれる現象が起きる(9)。この体液の移動は、視力の変化や心血管系への負担にもつながっていく。フリーダイビングにおける「血液シフト」——息止め潜水中に四肢の血流が頭部と胴体に再分配される現象(10)——と、体液再分配という点で構造が似ている。

筋力、ホルモン、そして遺伝子

6人の宇宙飛行士を対象にした研究では、腰部傍脊柱筋の除脂肪筋肉量が帰還時点で約2割減少し、数ヶ月後の再検査でも6割程度までしか回復していなかった(11)。ISSでは毎日2時間の運動プログラムが組まれているが、それでも筋肉量の完全な維持は難しい。

2015年から2016年にかけて、スコット・ケリー宇宙飛行士と地上に残った双子の兄弟マーク・ケリーを比較したNASA双子研究では、遺伝子発現やホルモンバランス、免疫系に至るまで多くの変化が確認された(12)。ケリーの遺伝子発現の多くは帰還から半年ほどで飛行前の水準に戻ったが、帰還から6ヶ月が経過した時点でも、遺伝子の約7%は発現量が変化したままだった(13)。

心の健康、そして「究極の予防医学」

ISSでは、各国からの宇宙飛行士が約半年間にわたり共同生活する(14)。閉ざされた空間で、文化の異なる乗組員と長期間ともに過ごすことは、決して簡単なことではない。JAXAはこうした宇宙飛行の医学的リスクを「究極の予防医学」と位置づけ、研究を重ねてきた(15)。

宇宙旅行に行きたいと思った時

骨、身長、体液、筋力、遺伝子、そして心。これらは独立した現象のようでいて、実は「重力という当たり前の存在がなくなったとき、体はどう振る舞うのか」という一つの問いに収束していく。人間の体は、地球という星の重力の中でこそ最適化されてきたのだと、あらためて気づかされる。宇宙に飛び立ちたいと思った時にも、地上で生活する時にも、自分自身の体を守るために知っておきたい知識だ。

次回は、この中でも骨の物語——ひと月で1%以上が失われていくメカニズムと、2025年9月にUCサンディエゴが報告したばかりの、血液幹細胞の老化加速に関する新しい発見(16)について、もう少し深く書いていく。

重力がある地上を歩く

参考文献

(バンクーバー方式:本文中の引用順に番号を付与。書誌情報はSISTスタイルに準拠)

(1) sorae編集部. "民間有人宇宙飛行ミッション「Ax-4」打ち上げ成功 ISS到着予定は6月26日". sorae. 2025-06-25. https://sorae.info/ssn/20250625-ax4.html, (参照 2026-08-23).

(2) 宇宙航空研究開発機構. "アクシオム・スペース社民間宇宙飛行士ミッション(Ax-4)". JAXA有人宇宙技術部門. 2025. https://humans-in-space.jaxa.jp/iss/flight/detail/ax-4.html, (参照 2026-08-23).

(3) OrbitalRadar編集部. "宇宙旅行の費用2026|1席12.5万〜5,500万ドル". OrbitalRadar. 2026-03. https://orbitalradar.com/ja/missions/space-tourism, (参照 2026-08-23).

(4) 宇宙旅行.com編集部. "宇宙に行くには?一般人でも申込可・費用750万円〜【2026年宇宙旅行ガイド】". 宇宙旅行.com. 2026. https://xn--29sob207cg49a.com/travel/space-travel-complete-guide-2026/, (参照 2026-08-23).

(5) 宇宙航空研究開発機構. "宇宙服". JAXA有人宇宙技術部門. https://humans-in-space.jaxa.jp/life/wear-in-space/spacesuit/, (参照 2026-08-23).

(6) 宇宙航空研究開発機構. "船外活動の準備から終了までの概要を教えて下さい". JAXA有人宇宙技術部門. https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000543.html, (参照 2026-08-23).

(7) 宇宙航空研究開発機構. "国際宇宙ステーション長期滞在を経験して". JAXA. https://www.jaxa.jp/article/special/expedition/wakata02_j.html, (参照 2026-08-23).

(8) 宇宙航空研究開発機構. "宇宙へ行くと、身長は変化するのでしょうか". JAXA有人宇宙技術部門. https://humans-in-space.jaxa.jp/faq/detail/000731.html, (参照 2026-08-23).

(9) 神戸新聞NEXT. "宇宙は身長が伸びる?". 神戸新聞NEXT. 2019-10. https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/keyword/201910/0010933678.shtml, (参照 2026-08-23).

(10) HiSoUR. "潜水反射". HiSoUR 芸術 文化 美術 歴史. https://www.hisour.com/ja/data/diving_reflex/, (参照 2026-08-23).

(11) Gizmodo Japan. "宇宙で暮らすと背が伸びる…でも腰痛は深刻になって戻らない". Gizmodo Japan. 2016-11-06. https://www.gizmodo.jp/2016/11/astronaut-irreversible-back-damage.html, (参照 2026-08-23).

(12) Garrett-Bakelman FE, et al. "The NASA Twins Study: A multidimensional analysis of a year-long human spaceflight". Science. 2019, vol.364, no.6436. https://www.science.org/doi/10.1126/science.aau8650, (参照 2026-08-23).

(13) National Institute on Aging. "NASA Twins Study reveals health effects of space flight". National Institute on Aging. 2022-01-27. https://www.nia.nih.gov/news/nasa-twins-study-reveals-health-effects-space-flight, (参照 2026-08-23).

(14) 宇宙航空研究開発機構. "精神心理支援 : 宇宙医学". JAXA. https://iss.jaxa.jp/med/research/mental/, (参照 2026-08-23).

(15) 宇宙航空研究開発機構. "健康管理と病気の予防に役立つ宇宙医学". JAXA. https://www.jaxa.jp/article/special/experiment/ohshima01_j.html, (参照 2026-08-23).

(16) Phys.org. "Spaceflight accelerates human stem cell aging, researchers find". Phys.org. 2025-09-04. https://phys.org/news/2025-09-spaceflight-human-stem-cell-aging.html, (参照 2026-08-23).


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xerograv. (ゼログラヴ)の「海の星、地球のストーリー100 LIFE WITH OCEAN」は、実体験や研究に基づいた海・地球・宇宙をテーマとし、そこに息づく生命について考察するブログ企画です。

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