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Ocean/海

西表島の海から

Chika

2026/7/25

海の星、地球のストーリー100__#001:

約400種類ものサンゴが生息する稀有な海:

海を愛する人であれば、多くの人にとって、お気に入りの海があるだろう。日本の沖縄県、西表島の海は、私にとって生涯大切にしたい場所となっている。世界自然遺産・西表島の周辺には、日本最大級のサンゴ礁域である「石西礁湖」が広がり、約400種類ものサンゴが生息する世界でも稀有な海だ。2023年に起きた大規模な白化現象から数年たち、今回、回復した珊瑚の姿をこの目で見ることができた。

サンゴは植物?動物?

サンゴは、植物だと思われることも多いが、実はイソギンチャクやクラゲに近い「刺胞動物」に分類される、れっきとした動物。ポリプと呼ばれる直径数mmほどの小さな個体が口と胃腔を持ち、触手でプランクトンを捕まえて食べる。このポリプが分裂を繰り返し、クローンの集合体として群体をつくっていく(1)。多くのサンゴは、体内に褐虫藻という藻類を共生させており、褐虫藻が光合成でつくった栄養の大部分をサンゴに分け与え、サンゴはその見返りに褐虫藻へ安全な棲み処を提供している(1)。

生殖方法も一風変わっている。波や他の生き物にぶつかるなどして折れた枝が、別の岩に固着して育つ「無性生殖」と、卵と精子が受精し「プラヌラ」と呼ばれる幼生になって泳ぎ、着床先を探して成長する「有性生殖」の2通りがある。多くのサンゴは毎年5月末から6月にかけて産卵する。一斉に産卵する幻想的な光景は、まるで宇宙に光る星々のようだ(2)。

珊瑚礁とは

ポリプが群体をつくりながら分泌する石灰質の骨格が、長い年月をかけて積み重なってできた地形が、サンゴ礁となる(1)。サンゴ礁が占める面積は地球表面のわずか0.1%程度にすぎないが、そこにはおよそ9万種もの生物が生息していると推測されている(2)。海の生物種のおよそ30%がサンゴ礁を頼りに生きているとされ、まさに熱帯雨林と並ぶ生物多様性の現場となっている。

白化現象とは

サンゴの美しい色の多くは、体内に共生する褐虫藻の色によるもの。ところが海水温の上昇など強いストレスを受けると、褐虫藻は体外へ放出していく。褐虫藻がいなくなると、サンゴ本来の白い石灰質の骨格が透けて見えるようになる——これが「白化」だ。ストレスの原因が短期間で解消されれば褐虫藻は再び戻ってくるが、高水温などの状態が長く続くと、栄養源を失ったサンゴは死に至る(1)。

世界が向き合う、サンゴ礁の現実

国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)は2025年4月、2023年2月から続く熱ストレスが世界の少なくとも82カ国・地域のサンゴ礁に深刻な白化を引き起こし、世界のサンゴ礁生態系のおよそ84%が影響を受けたと発表した。観測史上もっとも広範囲な「第4次グローバル・サンゴ白化現象」だ(3)。この広がりを把握しているのは、米海洋大気庁(NOAA)が人工衛星の海面水温データをもとに世界中のサンゴ礁を継続監視する「コーラル・リーフ・ウォッチ」プログラムだ(4)。

ただし、悲観的な話ばかりではない。2026年6月、野生生物保護協会とマッコーリー大学は、1960年から2025年にかけての45,000件以上の観測データをもとに、熱ストレスやサイクロンを回避・回復できる可能性を持つサンゴ礁について、世界規模の評価を発表した(5)。インド洋では記録的な熱ストレスにもほとんど白化しなかった「気候変動に強い」サンゴ礁も報告され(6)、世代を重ねた選択的交配でサンゴの耐熱性を高める「支援進化」の研究も進んでいる(7)。

環境DNA研究——「水一杯」で海を読む

サンゴをめぐる最先端の研究は、沖縄からも世界に発信されている。OISTは2011年に世界に先駆けてサンゴのゲノムを、2013年には共生する褐虫藻のゲノムを解読してきた(8)。

2025年5月、佐藤矩行教授が率いるOISTマリンゲノミックスユニットは、沖縄県環境科学センターなど5機関との共同研究により、海水1Lから国内造礁サンゴ85属中83属を検出できる環境DNA(eDNA)メタバーコーディングシステムを確立した(9)。潜って目視で識別する従来の調査に対し、水を汲むだけでサンゴを属レベルまで識別できるこの手法は、2023年3月、英国王立協会紀要に掲載された研究によって有効性が確認されている(10)。

2026年7月20日の「海の日」には、この技術を使った「琉球列島サンゴ環境DNAアトラス」がウェブサイトとして公開された。琉球列島231地点の調査結果から、地図上の任意の場所を選ぶだけで、そこに生息するサンゴの種類を確認できる(11)。

奮闘する漁師とダイバーたち

こうした研究を支えているのは、実際に海に入り、手を動かし続けている人たちだ。

沖縄本島の恩納村では、2004年に県内外の企業が集まって結成された「チーム美らサンゴ」が、恩納村漁業協同組合の協力を受けながら、サンゴ苗の植え付け活動を続けている。海水温上昇やオニヒトデの食害で壊滅的な打撃を受けた万座海域で、比較的生存率の高いミドリイシサンゴを中心に植え付けを行い、植え付けたサンゴからの産卵も確認されている(12)。

石西礁湖にほど近い石垣島では、2018年から八重山漁業協同組合のサンゴ種苗生産部会が、卵と精子を受精させて育てる「有性生殖」によるサンゴ再生に取り組んでいる。ふだんはモズクの養殖やマグロ漁を営む漁師たちが、有志で活動を続けている(13)。部会員の小林鉄郎氏は「昔は夜に少し潜るだけで、サンゴを隠れ家にしていた魚を捕ることができた」と、白化によって失われた豊かな漁場を振り返る(13)。

2024年5月には、有性生殖で育てたサンゴから再び苗を作る「完全養殖」に成功した。同年の記録的な猛暑でも、水温の低い海底へ苗を避難させるといった工夫が功を奏し、9割以上が白化を免れている(14)。この石垣島の「サンゴ産卵ファーム」(崎枝湾・八島地先)は2025年、劣化した生態系を回復させる取り組みとして、全国で初めて「自然共生サイト」の認定を受けた(15)。

海に潜るものとして

海に向きあうと、天体の動きと生き物たちの気配が強く迫ってくる。私たちの星は回転しながら宇宙に浮かんでいる。当たり前でいて当たり前ではないこの瞬間、自分自身は何をなすべきかを考える。xerograv.(ゼログラヴ)も、極限環境と生命をテーマとしたスタートアップとして、世界の研究と実践の輪に、参加していく。

このシリーズ「海の星、地球のストーリー100」の記念すべき冒頭は、この西表島から生まれた。

次回は、この旅のお供となった本、ジャック・アタリ『海の歴史』について書く。


参考文献

(バンクーバー方式:本文中の引用順に番号を付与。書誌情報はSISTスタイルに準拠)

(1) アクアパーク. "サンゴとは?". アクアパークのサンゴ再生活動. https://www.aqua-park.jp/special/sangosaisei/whatIsCoral/, (参照 2026-08-23).

(2) うみかいせい. "サンゴの産卵について". うみかいせい. https://www.umikaisei.jp/news/surflegend/48508, (参照 2026-08-23).

(3) Wikipedia. "2023–2025 global coral bleaching event". Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/2023%E2%80%932025_global_coral_bleaching_event, (参照 2026-08-23).

(4) bioRxiv. "Species-specific bleaching trajectories during the 4th global coral bleaching event in northeastern Peninsular Malaysia". bioRxiv. 2025-10-14. https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2025.10.14.682322.full.pdf, (参照 2026-08-23).

(5) Canada's National Observer. "More coral reefs may survive global heating than scientists once thought". Canada's National Observer. 2026-06-25. https://www.nationalobserver.com/2026/06/25/news/coral-reef-resilience-study, (参照 2026-08-23).

(6) Quigley KM, Siqueira AC, Brereton K, Baird AH. "High coral thermal tolerance at a potentially climate-resistant reef". Current Biology. 2026, vol.36, no.10, p.2507-2517.e3. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960982226004392, (参照 2026-08-23).

(7) Phys.org. "Saving coral reefs will require ruthless selection over generations to beat future heat waves". Phys.org. 2026-04-17. https://phys.org/news/2026-04-coral-reefs-require-ruthless-generations.html, (参照 2026-08-23).

(8) 沖縄科学技術大学院大学. "サンゴプロジェクト". OIST. https://www.oist.jp/ja/oist-coral-project, (参照 2026-08-23).

(9) 沖縄科学技術大学院大学. "日本に生息するほぼすべてのサンゴ礁を「水一杯」で読み解く". OIST. 2025-05-22. https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2025/5/22/discovering-rich-biodiversity-coral-reefs-using-comprehensive-new-system, (参照 2026-08-23).

(10) 沖縄科学技術大学院大学. "サンゴ環境DNA解析法の有効性を確認". OIST. 2023-03-29. https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2023/3/29/detecting-coral-biodiversity-seawater-samples-0, (参照 2026-08-23).

(11) 沖縄科学技術大学院大学. "環境DNAで琉球列島のサンゴ分布を可視化". OIST. 2026-07-20. https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2026/7/20/creating-map-coral-distribution-environmental-dna, (参照 2026-08-23).

(12) チーム美らサンゴ. "チーム美らサンゴ|「美ら海を大切にする心」を多くの人々に". tyurasango.com. https://tyurasango.com/, (参照 2026-08-23).

(13) 大川藍. "「サンゴや魚が豊かだった海を残したい」 有性生殖に漁師奮闘 八重山漁協、環境学習ツアーで収益化に意欲も". 沖縄タイムス+プラス. https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1458014, (参照 2026-08-23).

(14) 沖縄タイムス+プラス. "有性生殖したサンゴの9割超、酷暑による白化被害を免れる 沖縄・八重山漁協が養殖 若く生存力の強い苗を育成". 沖縄タイムス+プラス. https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1458010, (参照 2026-08-23).

(15) 日本トランスオーシャン航空. "サンゴ礁回復活動が「自然共生サイト」全国初の認定を取得". JTA. https://jta-okinawa.com/pressrelease/25045/, (参照 2026-08-23).

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